最新情報NEWS

社長コラム

【第7話】今ある物の価値:生かし切る極意学ぶ

5月の連休中に信州高遠美術館を訪ねた。16代続く京都の桜守、佐野藤右衛門氏が所蔵する桜に関する美術コレクションが公開されている。地元出身の陶芸家、小松華功氏とのコラボも見どころの一つ。小松氏の器に華道家で私の師でもある唐木さち先生が花入れをするとあって駆け付けた。
 
先生は、両氏とも親しくいわば今回の美術展の仕掛け人でもある。展示作品の取合わせの妙や、花入れのしつらえ一つ一つに込められた意図について先生に解説していただいた。これについて紹介したい。
 
花入れは5月の新緑がまぶしいギャラリーに展示されていた。野の花の生命力と器の質感が響きあい、京都の雅が表現されている。何気なく掛けられているように見えた鎧兜(よろいかぶと)の掛け軸、鉄の花器、先生の着物の帯の鯉(こい)の絵柄、船の置物、いずれも「端午の節句」という糸でつながっていた。
 
佐野家が三代にわたり収集した掛け軸や屏風(びょうぶ)は桜がテーマ。江戸時代後期の作品を中心とする華やかで重厚なコレクションだ。展示の位置も陶器との組み合わせ、描かれた桜の枝の向き、表具の柄、さらには部屋の間取りや企画展の趣旨など全体の調和を考え、「あるべき場所」に配置されているという。
 
それを聞き、思い出すことがあった。私たちが4月に開催した新酒まつりに立ち寄った唐木先生からある指導を受けていたのだ。会場に配置したテントが「桜の枝の視界を遮っている」という。酒と共に、蔵の庭に咲くコヒガンザクラも楽しんでもらおうと企画したにもかかわらず、それが客の目にどう映るかまで気が回らなかった。テントも「そろそろ新調しなくては」と考えていたが、肝心なのは、その使い方だった。「ないものを欲する前に、今あるものの価値を知り、それを生かし切ること。その感性を磨くことの大切さ」を説かれたのだと理解した。
 
「今あるものの価値を見定めて、生かし切る。」
 
四季折々の花と向き合う先生が大切にされる極意だと思う。自社の置かれた環境、人材を生かし切ることができるか―。経営者として、また一人の人間として、今後探求していくべき大事なテーマをいただいたと感じた。

ARCHIVE