【第13話】商品デザイン:酒は経営者の心写す鏡
年明けの1月は酒造りが佳境に入る時期。各蔵から続々と発売される新酒は、商品名やラベル、瓶の形や色も多種多彩。今回は商品デザインについて考えてみたい。
商品デザインを考える時、先に決めるのは瓶と栓である。瓶の選択肢は多くない。酒は紫外線に弱いため、瓶は茶色や黒、緑が一般的だ。キャップも開けやすさや、密閉性などの機能を満たすものを瓶の色に合わせればよい。その上でラベルの制作になるが、問題は誰がどうデザインするかである。
一般的なのは、定評のある印刷会社や広告会社に依頼する方法だ。瓶の規格や大まかなイメージ、いつ、誰に、どんな場面で飲んでほしいかを伝えれば数種類の案を出してくれる。それを修正しながら決めていけばよい。
もう一つ、最近試した方法がインターネット上でのコンペだ。予算とラベルの規格、イメージなどを投稿して募集すると、全国各地のデザイナーや美大生、デザイン好きの主婦などがデザイン案を入稿してくれる。その中から気に入ったものを選ぶと、デザインした人に金が支払われる仕組みだ。
ラベル案の選択肢が増えるのは歓迎すべきことだが、その分だけ迷うことになる。結局は自分の眼力、美的感覚を頼りにするしかない。以前のコラムでも紹介したが、私が生け花を学びはじめた理由はここにある。
今回も迷った揚げ句に先生に相談したところ、「ラベルだけを見ずに、製品がおかれる食卓の風景、器の質感、食材の艶や彩を観るように」と指導いただいた。これは生け花の極意である「花の色や形、花器の質感を、それが置かれる空間と調和させる」と通ずるものだった。
もう一つ、生け花を通じて感じるのは、ここで養った審美眼は食や味覚に対する洞察にも通ずるという点だ。「良い食器には良い料理が要求される」と言われ、優れた料理人の中から名陶芸家が生まれることがあるという。よい食とよい器、商品の味わいとその外観は一致するのだ。誤解を恐れずに言えば、酒のおいしさと見た目の美しさは比例する。経営者の美意識や心のありようが酒に反映すると考えている。
「人の心を打ち、人の心に食い入るようなものこそが藝術」と北大路魯山人は書いた。私も自らの心を磨き、花の道から学ぶことを通じて、いつの日か、そんな商品を世に出していきたいと考えている。