黒松仙醸

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蔵だより

社長執筆の新聞コラム PartⅢ

2015年がスタートしました。
日本農業新聞に黒河内貴社長が連載しているコラムの昨年までの分を一挙にアップします。
蔵元が日々、どんな想いで仕事をしているのか、その一端を垣間見ることができるかもしれません。ぜひ、ご一読ください。今年もよろしくお願い申し上げます。

 

 地酒と専門店  ― リスク負う覚悟持ち       6月19日掲載

  5月下旬に、ある酒を発売した。発売に至る過程で「地酒」とそれを取り扱う「専門店」について考えさせられた。これについて取り上げたい。
 そのお酒は偶然の産物だった。米を40%まで磨いた純米大吟醸だが、発酵力が弱く甘口に仕上がった。狙いとする酒質と違ったが、透明感のある甘さと酸味が調和した「意外にいい酒」と感じていた。この酒の価値を見出したのは、その頃に弊社を訪ねた地酒専門店のKさんだった。この酒を「いける」と直感したKさんは、瞬時にその酒の売り出し方、ラベルのイメージ、顧客層、容量まで提案してくれた。実際、酒の展示会でも好評で多くのご注文をいただくことができた。
 しかし、いよいよ出荷という時、再度利き酒した私はがくぜんとした。展示会に出品した頃の味の伸びやかさと力強さが失われていた。原因は明らかだった。火入れをしたことで酒質が変化したのだ。酒を瓶に詰めて瓶ごと加熱し、その後急激に冷やすという加熱方法をとったにも関わらず、微妙な変化は避けられなかった。早速サンプルをKさんに送って意見を聞いた。「プロでなければ分からない差」との答えだった。Kさんの読み通り、発売後もお客様に好評をいただいているし、売れ行きも上々だ。しかし、当初の素晴らしさを知る私としては後悔が残った。
 甘口の酒には多くの旨味成分が残存しているため味が変わりやすい。火入れはその変化を止める手段だ。品質の安定を考えれば火入れが正解だ。一方で、酒は生ものであり、嗜好(しこう)品でもある。絶えず変化する味わいの旬を見極め、十人十色のお客様の嗜好とマッチングさせるのが「地酒専門店」の役割であるならば、火入れでなく、「生のまま」商品を提供すべきだった。プロしか扱えない商品として舌の肥えた顧客をも魅了したことだろう。
 食品製造業としては均一性や再現性、安全性は重要なものだ。しかし、それだけでは感動を与える商品は生み出せない。旬の味を見極める確かな味覚と、それを伝える情熱、そして何よりもお客様の感動のために少しのリスクを負う覚悟をもった「専門店」の期待に応えられる商品を出していきたいと感じた。地酒として生きる道もそこから開けるのだと思う。
 
商品設計   ― 問われる感性や信念     7月31日掲載
        
 新しい醸造年度が始まる7月初旬に毎年、経営方針の発表会を行っている。ホテルの一室に金融機関や得意先の役員を招き、スクリーンに資料を映し、社員を前に約1時間、話をした。内容は新年度に力を入れたい分野だ。 ①高級酒の市場②どぶろく・甘酒といった米発酵飲料③小売販売部門④海外への輸出―――の4分野について、目標と計画を示した。
 話をする際に心掛けている点がある。それは、分かりやすく話すことと、前向きな内容にすることだ。どんな企業でも低迷縮小する分野と、拡大発展していく分野があるが、どちらを経営者が注目するか次第で、聞いている社員の士気や実際の結果にも大きな影響を与える。
 今回も停滞する分野には触れず、成長性のある商品をさらに伸ばすことで減少分を補おうと呼びかけた。経営方針を明示するようになって3年。自主的に考えて動く社員が増えたし、自分も社長として迷うことが少なくなったと感じている。
 経営方針より難しいことは商品設計である。なじみの薄い言葉かもしれないが、例えば新商品を出す時、次のことを決めることだ。どんな香味にするか。客層、ラベルデザイン、商品名、価格、販売地域、流通経路はどうするか。その味わいを生み出すには、どんな品種の米を何%精米して、どんな味に仕上げて、何か月熟成させて出荷するか――。
 新商品はもちろん、定番商品でも毎年設計を見直している。仕入れた酒造好適米を設計通りの酒にするのは杜氏(とうじ)の職人技だが、酒のコンセプトを明確に言葉で表現し、杜氏に伝えるのは社長の仕事だ。
コンセプト作りに正解はない。市場の動向に目を配り、自社の販売スタッフや酒の専門店の話も聞くが、味に関する意見は十人十色。最終的には自分の直感を頼りに決断しなくてはならない。また、市場で支持される味のトレンドに合わせるか、独自の味わいを追求するかも酒に対する哲学がなくては決められない。
 商品設計の難しさは、科学的な思考よりも、言葉では表現しにくい経験や感性、信念といったものが要求されることにある。アートや表現の領域といってもよい。これは酒という嗜好品をつくる仕事の特徴でもあり、面白さでもあると思う。

■酒粕   ― 副産物の価値高めて   ― 9月11日掲載

 今夏の日照不足により稲の作柄の良否が心配されているが、縞瓜の不作も酒造業界に影響がある。縞瓜が不作だと漬物用の酒粕(かす)が売れないのだ。今回は酒粕について紹介したい。
 酒粕には漬物用の夏粕(練り粕)と、粕汁などに使われる冬粕(板粕)がある。酒造期間は主に11月から3月。米と米麹(こうじ)、酵母を仕込んでから約3週間の発酵期間を経て上槽(しぼる)する。ここで透明な液体(酒)と板状の固体(酒粕)に分けられる。酒粕を板状のまま流通させれば冬粕になる。一方、冬粕をタンク等の容器に詰め込んで(踏込み)、7月まで貯蔵し、柔らかくなったものを袋に入れて販売するのが夏粕だ。
 弊社では夏粕が主流で、冬粕はその5%程度しか出荷してこなかったが、それには二つの理由がある。夏粕がよく売れたことと、冬粕の時期は酒造りの最盛期のため袋詰めに人員を割けないことだ。
長期的に見ると、冬粕市場の方が見通しは明るい。今夏のように、夏粕は縞瓜など野菜の作柄や出荷量、販売価格の影響を受ける“相場商品”のため、売れ残るリスクがある。また、日本人は野菜を漬物という伝統的な手法で保存食にしてきたが、若い世代はそこまでしない。このため漬物需要は減少が予想されるためだ。これらを踏まえ、当社としては今後、夏粕から冬粕に重点をシフトすべきと考えている。
 酒粕は栄養価と機能性に優れた食材で、3年ほど前、NHKの報道を機にブームとなったが、その主成分は米麹であることはあまり知られていない。日本酒の仕込み配合は、通常は米8、米麹2だが、酒粕になるのは主に2割の米麹である。つまり麹は米を溶かして酒にする液化・糖化酵素を作るのが役割だが自らは溶けないのだ。
 酒粕は名の通り日本酒製造の副産物であり、利用しなければ産業廃棄物となる。他方、その価値を見出し、必要とされる時期に必要とされる形で供給できれば富を生む宝の山だ。酒粕の他、精米時に出る米粉や米ぬかなども清酒の副産物だが、知恵と技術で価値あるものに生まれ変わる可能性がある。
 「人の行く裏に道あり花の山」。人が気付かないものに価値を見出すことのできるセンスを身につけたいと思う。

 イベント  ― "声“聞く貴重な機会        10月23日掲載

 毎年、酒蔵にお客様を呼ぶイベント「仙醸 蔵まつり」を開いている。6年目の今年も今週末の26日に予定する。当社の商品を紹介する試飲・販売コーナー、酒蔵見学などが中心だが、社員で作った豚汁のサービスや、利き酒コンテスト、そば、漬物などの販売も地元業者の協力を得て行っている。
 地元客を中心に毎年約800人にご来場いただき、定着してきたと感じるが毎年、創意工夫を重ねている。今年は地元の豆腐など、酒に合う地域の食材を充実させる。木曾の開田高原からも木曾牛などの特産品を提供いただく。専門家による地域の食と酒に関するセミナーも企画した。
 開催目的は当社のファンづくり。商品(酒)と社員(人)、企業(蔵)に愛着を持っていただくこと、どんな人がどんな場所で、どんな思いで作っている商品であるかを伝える。同時にお客や、出展業者の声を直接聞ける貴重な機会でもある。
 もう一つの目的は社員研修である。準備に当たり、社員は日頃所属する営業部、醸造部といった枠を横断した3部会(総務・食・酒)に分かれ、責任者のもと、部会ごとに計画、運営、反省を行っている。日常業務と並行して準備を進め、当日も悪天候などの予測しない事態にも対応していくという経験は、通常業務上でもプラスになる。また、おもてなしの一環で環境整備にも力が入り、社内がきれいになるのも良いことだ。
 蔵開放の取り組みは近年、各地で盛んに行われ私も足を運んでいる。各社の趣向は様々だが、面白いのは経営者の個性がよく現れることだ。会場のしつらえや、企画のセンス、その中の力点、さらにはスタッフの一体感、環境への配慮、組織の統率など、良くも悪くも経営者が自らの力量をさらす場であり、そこから学ぶ場である。
 醸造所が地域に関わる祭典と言えばミュンヘンのオクトーバーフェストが世界的に有名だ。200年の伝統をもつこの催しは数週間で600万人が訪れ、580万リットルのビールが消費される。規模は違うが日本酒の各蔵元の取り組みによって世界から人を呼ぶ蔵まつりが開催できる日もそう遠くはないと思っている。

補助金の活用 補助金の活用 補助金の活用  ― 支援に頼らぬ覚悟も       12月4日掲載
 
 酒造りが佳境に入る師走を迎えたが、衆議院選挙となった。「アベノミクス」の評価が問われる選挙と言われるが、酒造業界でもアベノミクスの影響は少なからず受けている。農産物の海外への輸出の取り組み強化などがマスコミでも伝えられるが、より現場に関わるものとして「中小企業ものづくり補助金」を取り上げたい。
 この補助金は、日本の国際競争力の源泉でもある「ものづくり」の技術を一層磨くための支援事業で、成長分野の市場ニーズにあった形に製造現場を変革しようとする企業の研究開発や設備投資を支援する。食品製造をはじめ、ものづくり全分野が対象で、2013年度予算は1400億円、全国で約1万5000社(長野県内は約400件)の申請が採択された。
 清酒業界でもかなりの数に上る。製造現場で使用する機械設備等の改良や新規導入の案件が多く、業界の技術レベルと品質向上に大きく貢献すると考えている。弊社も地元の金融機関の指導のもと「酒の加熱殺菌技術の高度化」というテーマで採択されたので、有意義に活用したい。
 国や県からの支援、補助金、助成金は、実に広範な分野にわたる。農産加工関連だけでも、新規就農、販路開拓、農商工連携、6次産業化支援などさまざまだ。一企業ではなく、地元商工会議所やJAなどの団体が受け皿となるケースが多い。
 支援を機に事業が発展することもあるが、支援期間が終わって財源がなくなると継続できず終わってしまう事例も多く見てきた。特に販路開拓などはある程度継続しないと成果に結びつかないのだが、それに対する支援は通常1年、長くても3年程度と活用しにくい面もある。
 支援を受ける側にも問題がある。実現したい事業があり、それを遂行する手段として支援策を利用するのが本来だが、「どういう内容にしたら補助金を得られるか」という観点で事業の方向性を決めてしまう傾向があるからだ。支援を受けなくても自力で進める覚悟が本当は必要なのだ。
 公的機関の行う支援事業の財源は税金だ。一人の経営者として、また酒造業界に身を置くものとして、事業の目的を明確に持った上で、支援策を有効利用していきたいが、それに頼らない覚悟を持ち続けなければと肝に銘じている。

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