黒松仙醸

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蔵だより

社長執筆の新聞コラム

新しい年が明けて、厳寒のなか酒造りも本格化してきました。
仙醸の蔵人たちがどんな想いでお酒を造っているのか、
最近の日本酒に関わる動向は?
その一端がわかる黒河内貴社長のコラム(2013年日本農業新聞4回連載)を一挙にまとめました。
ぜひ、ご一読ください。

 

■酒造りで風土を語る 8月8日掲載
 
 6月26日に日本酒の海外輸出セミナーに出席した。講師は著名なソムリエであり、また権威ある世界的ワインコンテストの日本酒部門で審査員も務める大橋健一氏。内容を一言で言えば「蔵元よ、技術でなく風土を語れ」であった。紙幅の許す範囲で披露したい。
 まず「良い酒を生み出す条件」から考えてみよう。清澄な水、上質な酒米、杜氏の技、最新鋭の設備などがあげられる。蔵元からの説明もこのような内容が中心だ。しかし、これではいけないと主張する大橋氏。なぜか?
酒の輸出が順調に増加し世界中で日本酒が消費される時代を想定してみよう。中国でも酒が売れるようになれば中国人実業家が中国での清酒の生産を始めるだろう。最高級の日本酒を作るための条件が、先に上げた米や水、杜氏の技術や最新設備とするなら、金さえかければ、すべて中国でも入手可能だ。有能な杜氏も破格の条件でスカウトできる。米も水も日本から調達すればよい。中国人事業家は最高品質の日本酒を堂々と主張し、国産清酒と市場を奪い合う競争相手として名乗りを上げる。
 その時、日本の蔵元は何をもって国産清酒の優位性を訴えていけばよいのだろう。その答えとなるのが「風土」である。米や水、技術は確かに大事だが、歴史の中で最適化されたそれらの複雑な組み合わせこそが良い酒を生むという考え方だ。日本は地域ごとに気候、水質、地質や気質に至るまで多様な個性があり、それが個性的な酒を生んでいる。
 教科書的に酒造りに最適な条件だけが良いとは言えない。むしろ、悪条件と言える環境から際立った個性をもった酒が生み出されることがある。短所は長所でもある。個性のある酒なら市場でも確固とした立ち位置を確保できる。「蔵元よ、技術でなく風土を語れ」という理由はそこにある。弊社の立地する信州伊那も二つのアルプス連峰に挟まれた酒米の宝庫だ。それを生み出す風土について深く学び酒造りにいかしていきたいと強く感じた講習会であった。 


 ■どぶろくの魅力を伝えたい 9月19日掲載

 昨年11月に「どぶろく」を発売した。おかげさまで好調な売れ行きだ。どぶろくは全国でも30社程度が製造している。酒造期である冬季の生産が一般的だが、弊社では通年で製造販売している。この取り組みについて紹介したい。
 どぶろくの造り方はシンプルだ。蒸米と麹米を約60℃の湯であまざけの状態まで糖化させる。その後、急冷し酵母菌を加えると発酵が始まり、約10日で完成する。口に含むとブドウ糖の甘味と乳酸菌の酸味が広がり、細かな泡と馥郁(ふくいく)とした香りが食欲をそそる。
 私は、どぶろくの一番の魅力は、泡にあると思っている。シャンパンのようにわき上がる泡の舌触りは数億とも言われる酵母菌が作りだす魅惑の食感だ。この発泡性を残すため弊社では低温殺菌を行い、保管流通とも5度以下で管理している。それでも瓶内では酵母の活動により香味が日々変化していくため、2週間の賞味期限を設けて、早めに飲んでいただいている。お酒を普段飲まないお客様からも評価いただけるのはうれしいことだ。
 どぶろくの歴史は稲作文化と同じくらい古い。またお神酒と同じく宗教儀礼上も重要な役割がある。明治時代に自家醸造が禁止されるまで全国各地の農家で地域色豊かなどぶろくが作られてきた。これは日本ばかりではない。穀物から糖分を抽出し酵母菌の力を借りてアルコール発酵させた民族酒は世界中にある。原料もヤシ、ヒエ、トウモロコシなど様々だ。現在はあまり飲まれなくなったものも多いが、それぞれに民族の歴史と伝統を色濃く受け継ぐ民族の酒だ。
 どぶろくも2002年にどぶろく特区が設けられ、製造要件緩和により、身近に楽しめるようになった。また近年の塩麹ブームに見られるように麹や甘酒が再評価されているのも心強い限りである。日本が世界に誇る麹文化と清酒醸造技術、その原型としてのどぶろくの魅力をこれからも広く伝えていきたい。2020年の東京五輪でも日本文化の酒どぶろくで「おもてなし」したいものだ。

               
■酒米の確保は自己責任 10月31日掲載

 この冬の酒造りがいよいよスタートする。酒造好適米(酒米)の作柄も上々。酒の神様、松尾様にも先日、安全醸造祈願をしたところだ。万事順調といいたい今期の酒造りだが、酒米の確保には少なからぬ気苦労と、そこから得られた教訓があった。一言で言えば「酒米の確保は自己責任。蔵元が栽培農家と直接関係を築く努力をするべき」である。背景から話を起こそう。
 長野県の場合、酒米調達の最も一般的なルートは、次のようになる。①酒米農家⇒②地域のJA⇒③全農長野県本部⇒④長野県酒造協同組合(以下酒造組合)⇒酒造メーカー。矢印は流通経路である。①で収穫された酒米が、②③を通って④の酒造組合から酒蔵に米が販売される流れだ。特に④は協同精米所としての役割もあるため、自社で精米機能を持たない酒蔵は④から仕入れるしかない。一方、自社で精米機を保有している場合④だけでなく、①、②、③から直接玄米を仕入れることが可能だ。弊社は自社精米機をもっている上に、地元上伊那が酒米の主要な産地のため、②のJA上伊那からの直接購入も十分可能な環境にあったが、④の酒造組合から玄米を仕入れるのを常としていた。  
 さて今年の状況だが、9月に酒米「ひとごこち」について県内各蔵の購入希望数量を取りまとめたところ、酒造組合に入荷予定の数量のなんと1.5倍に上った。このような場合、組合の規約に基づいて、各蔵への配分数量の調整が行われる。その結果弊社としては希望数量の3分の2まで減らされる事態となった。地元上伊那が「ひとごこち」の主要な産地で、JAからの直接仕入れも選択可能だったことを考えれば、酒造組合からの仕入れという方針が裏目に出た格好だ。
 酒米はこれまで余ることはあっても不足する事態はなかったために、安定確保に対する策が十分でなかったことは反省点だ。来春からは地元の農家と契約し、良質な酒米の安定確保と栽培技術の向上に取り組む計画だ。他方、酒造協同組合に対しては、組合員としてその発展に貢献する姿勢を持つと同時に、それに依存しない心構えを持つべきだと強く感じた今回の事例であった。
 
 
■日本酒を海外市場へ 12月12日掲載

 11月に香港で開催されたワインの国際見本市に参加した。(日本貿易振興機構)JETROの支援を受けて多くの酒蔵が日本酒ブースを出展した。この模様を紹介したい。
 香港に限らず、酒の輸出事業の成否は、現地での販売を委託するパートナー選びにかかっている。展示会はその出会いの場だ。今回も3日間で30以上の企業と商談を行った。必ず聞かれたのが、「香港に販売代理店があるか?」「うちを専属代理店にしてくれないか?」というものだ。質問者の多くはワインや食品の卸業者で日本酒の取り扱いを増やしていきたいと言う。蔵元からすると結構な話だが「専属」というのが曲者だ。他業者に卸さない独占契約にしてほしいのだ。狭い香港市場で価格競争を避けたいのだろうが、こちらも簡単にそんな約束はできない。独占契約をしてしまえば、結果が出なくても、他に販売網を広げることができなくなるからだ。
 今回、私は渡航前に日本の得意先からある香港人事業家の紹介を受けていた。実際に彼に会ってみて、日本酒に対する情熱、冷凍肉類の流通で築いた顧客基盤、そしてチルド流通のネットワークをもつ有望な会社だと感じた。弊社にとって本命といっていい。
 しかし、ここと販売契約を結べばよいかというとそう単純ではない。この業者には他の蔵元も期待を寄せているため取扱銘柄が多いのだ。実際、本人も取扱い銘柄の数を絞り込む必要を感じているようだった。弊社ブランドを重要銘柄として扱う確証のまだない相手に独占販売権を与えるのは一つの賭けでもある。迷った末、本命であるこの会社と一年間付き合う方針を決めた。結果がどうでるかは未知数だが、一歩前進だと考えている。
 見本市に出展していた他の酒蔵から学ぶことも多かった。輸出事業への着手を機に、新たに中国語を学び始め、今回立派に中国語でスピーチしたA社長、中国語学留学の経験を買われて1歳の子供を日本に残して出張してきたB蔵の総務担当の女性の姿勢には感銘を受けた。こうした努力の積み重ねによって、いつの日か日本酒の海外市場が大きく花開くだろう。自分もその一翼を担いたいと考えている。
 
  

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